こんな小説を頂きました。mebiです。
例の核砂糖氏から小説です。ありがとうございます。
ちゃんとお返しもします。
核砂糖氏のサイトコホー
鏡を買った。
でかいヤツだ。縦2m横1mぐらいで、俺の全身が余す所無く映せるヤツだ。
そいつを二枚ばかしガラス屋に注文したのが、丁度三日前。
そして今日、ついにそれらがこの家に届いたわけだ。
壊れ物ゆえ大量のクッション材にこれでもかとばかりに梱包されている二枚の鏡を丁寧に開封し、とりあえず壁に立てかけてみる。
鏡の表面はどちらも良く磨かれていて傷どころか曇り一つ無く、ぎらぎらとシャープに輝いている。
一流の業者から一番高価な物を注文したのだから、当たり前だ。
俺が、つい得意げに微笑むと、二枚の鏡に映った二人の俺も、得意げな顔でこちらを見返してきた。
うむ、絶景。
さて、悦に浸るのもこの辺にしてそろそろ本題に入ろう。
そもそも俺がわざわざ高い金を払ってこの二枚の鏡を買ったのは、とある目的のためだ。
合わせ鏡と言う物を知らない人はいないだろう。
二枚の鏡を向かい合わせに設置すると、互いがお互いを映し、何処までも鏡の奥の世界が続いているように見える。と言うアレだ。
そしてこっから先があまり知られていな・・・くもないか。
その合わせ鏡の間という物は、午前0時丁度その瞬間のみ、別次元とリンクして悪魔の通り道となる。という言い伝えがあるのだ。
・・・別に笑ってくれたっていい。
俺だって解かってるよ。そんなのがでたらめな事ぐらい。
でもさ、もしやれるんならやってみたくなるだろ?試してみたいだろ?
んで、そんな欲望にとことん弱い俺は、ついつい高い金払ってこんな馬鹿げたことを実行しつつあるわけだ。
だってよ、一人暮らしの、しかもちゃんと働いてる成人男性ってヤツは養う人がいないぶん金が余るんだよ。
ちょっとぐらい馬鹿してみたっていいじゃないか。
俺はよっこらしょっと鏡を持ち上げると向かい合わせにするべく、それを狭い廊下の壁に立てかけた。
こうやって間隔の狭い廊下の壁の両側に鏡を立てかければ、いい具合に合わせ鏡ができる、という寸法だ。
二枚の鏡を動かし終わった俺はふうと息を付いて完成した合わせ鏡を見た。
我ながら良くできている。
さて、後は零時まで待つだけだ。
時計を確認してみる。
俺の部屋の壁掛け時計は数字の書いていないタイプのシンプルなヤツで、だいぶ前に友達からもらったヤツだ。
俺はシンプルイズベストをモットーとして世の中を生きているので、結構気に入っている一品でもある。
んで、その時計の針は11時13分を示していた。
何だ。まだ11時過ぎじゃないか・・・。
もっと遅い時間だと思ったんだがなぁ・・・。
俺はしばらく時間をつぶす方法を模索した。
ちょっと考え込んでいると、すぐに脳裏にこの鏡たちを包んでいたクッション材が浮かんだ。
そう、プチプチ君だ。
・・・30分ぐらいプチプチやり続けたろうか。
俺はなんだか無性に自分の人生が意味の無い物に思えてきて、鬱な気分になった。
何となくブルーな気分に浸っていると、気分と共に身体の免疫力も低下したのか突然腹がギュルギュルとうめきだす。
先ほど飲んだ牛乳がヤバかったらしい。
すぐに我慢できないほどの痛みが襲い始め、俺はトイレに向かって直行した。
トイレは廊下の奥だ。
合わせ鏡の間を通り、俺は廊下を通過する。
鏡の間を通る時にこちらを見返してきた無限の視線が・・・ねっとりと瞼に焼きついた。
あぁ〜〜・・・。腹いてぇ〜・・・。
しばらくして俺はトイレから這い出すようにして廊下に戻った。
だいぶ時間を消費してしまった。
多分、ギリギリまだ零時にはなっていないと踏んでいるのだが、なにぶん痛みに支配された今の俺の感覚だ。あまり信頼はできない。
鏡の方に目をやると、丁度、このトイレの入り口にいると俺の部屋の中の様子が映っており、しかも何と時計までばっちり見えていた。
0時1分。
おいおい。何だよ・・・ギリギリ過ぎちまってるじゃねぇか。
俺はがっかりしつつも、明日こそは!と決意を新たにし、部屋に戻ろうとよろめく足腰に力を入れた。
畜生、下痢さえしなければ・・・。
廊下を進みながらそんな事を考えていた俺は、すぐに気付く。腹痛でぼぅっとしていたとはいえ、普通もっと早く気付いていたはずの事を。
鏡、という物は現実にあるものを左右対称に映すんだよな・・・。
という事は0時1分を左右対称にすると・・・
0時59分。
俺がふと横を見ると・・・そこには無限に続く、俺の真っ青になった顔があった。
ドン!
次の瞬間、何かが俺にぶつかった。
冷たいような熱いようななんとも形容しがたい感覚を残し、そいつは俺を突き飛ばした!
「うわぁっ!」
俺は悲鳴を上げると同時に地面に付き転がされ、どさりと倒れこむ。
「うわぁああっ!!」
顔を上げるとそこには無限の顔顔顔。
恐怖に引きつり、この世の物とは思えない俺の顔。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
堪らず、俺は目の前の鏡を殴りつけた。
鏡は、ビシリと大きなヒビが入ったかとおもうと次の瞬間バラバラに砕け散る。
無数の破片が俺の身体を、特に拳を血まみれにしたがかまわなかった。
間髪いれずにもう一枚の鏡にも蹴りを入れ、粉々に打ち砕き、またもその破片で血まみれになる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
荒い息。
俺の呼吸だ。
血と、鋭利な鏡の破片とでめちゃくちゃになった俺の部屋で、俺は静かに立ち上がった。
さらさらと細かいガラスの欠片が俺から流れ落ち、そしてぽたぽたと血が伝った。
「・・・・・・・・・フゥーー・・・」
粉々になった鏡を見て、ようやく落ち着きを取り戻す。
そして強盗に襲われてもこうはならないんじゃないか?というレベルまで散らかった床を見て、いそいそと掃除道具を探そうと部屋を見回し、
違和感に気付いた。
いや、全ての物がここに有るはずの物だし、逆に有るはずの物が無かったりとか、そういうのはなかった。
だが、何かが・・・違う。
一瞬の思考の後、俺は違和感の正体に気付いた。
そして恐怖のあまり大声で泣き出した。
大の男がわき目も振らず泣き出す、わめき散らす、嘆く・・・。
なんとも情けないことだ。
しかし、もうそんな事はどうでも良かった。
逆周りに回る時計が、カチコチと機械的に音を立て続けた・・・。
は・・・さっきナニカに突き飛ばされた時、鏡をくぐってしまっていたのだ。
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